公開日: 2025年10月20日
お子さんが「バイバイ」をするとき、手のひらが自分のほうを向く(いわゆる「逆さバイバイ」)ことがあります。
SNSや口コミで「発達障害のサイン?」と心配する声も見られますが、まずお伝えしたいのは、多くの場合は発達の途中でよく見られる動きだということです。
必要以上に不安にならず、ポイントを知って見守りましょう。
なぜ「逆さ」になるの?

1) 鏡写し(ミラー)でまねをするから
乳幼児は、相手の動作を自分の体で見たまま「鏡写し」にまねすることがよくあります。これは、相手からどう見えるかを入れ替えて考えるのがまだ難しいためです。向かい合っておとなが手を振ると、左右が入れ替わり、手の向きも反転しやすいのです(例:相手の右手に対して、自分は左手で、手のひらの向きもそのまま同じ形を作る)。
2) 手の動きの発達の途中だから
手首を返す「回内・回外」という動きは、細かい手の運動のひとつで、年齢とともに少しずつ上手になっていきます。発達の途中では、自然と体の真ん中に向けた楽な向きになりやすく、外向き(相手側)にきれいに向けるのはまだ難しいことがあります。
3) 自分の手を見て楽しむ時期だから
お子さんは成長の中で、自分の手の動きそのものに興味が向く時期があり、手のひらを自分に向けて眺めながら振ることもあります。これは探索行動のひとつとして乳幼児期にしばしば見られるもので、もちろん個人差もあります。
つまり、逆さバイバイ=異常ではありません。多くは発達の過程で見られるまね方や運動の特徴として説明できます。
発達障害との関係は?

いくつかの研究では、発達障害のあるお子さんに「手のひらの向きが反対になる」といったまねの仕方が見られる割合が高いという報告があります。ただし、逆さバイバイだけでは発達障害と判断できません。大切なのは、他のサインの組み合わせや、年齢に応じた全体の発達の様子を見ていくことです。
また、身ぶりの「数」や「使い方」(例:指さし・物を見せる・うなずきなどのコミュニケーション手段)が少ない、または育っていない場合は、自閉スペクトラム症を含む発達の特性を示す早期サインになり得ると報告されています。
受診・相談の目安

次のような様子があるときは、相談の目安になります。
- 身ぶりが少ない(1歳〜1歳半ごろにバイバイ・指さし・物を見せるなどがほとんど出ない)
- 共同注意が見られにくい(「見て!」と示したものを一緒に見ることや、相手が見ているものに気づくことが難しい)
- 名前を呼んでも反応が乏しい、視線が合いにくい、まねが少ない、言葉の育ちがゆっくり、同じ動きを繰り返す など
ただし、これらは月齢や個人差によって異なります。
逆さバイバイそのものはよくある発達の過程ですが、このような様子が合わせて見られるときには、乳幼児健診や小児科、地域の発達支援の窓口に相談してみると安心です。
おうちでできる関わり方

今日からすぐに取り入れられる、簡単な工夫やコツをご紹介します。
- 横並びで見本を見せる:向かい合うと「鏡写し」になりやすいので、お子さんの横や背後(同じ向き)に立って一緒に手を振ると向きがそろいやすくなります。
- 楽しい場面でくり返し:お迎え・いってきます・動画のキャラクターなど喜びとセットで「バイバイ」を。できたらすぐにほめてあげるのがコツです。
- 指さし・共同注意を育てる遊び:絵本や散歩で「見て!」「どれかな?」と指さし→見合う→うなずく、をくり返してみましょう。
- 「治す」より「広げる」:手の向きを矯正しようと叱る必要はありません。まねる楽しさを増やし、身ぶりのレパートリー(拍手・ちょうだい・どうぞ など)を広げましょう。
こういった工夫を通じて、やりとりの経験が増え、身ぶりの幅が広がってくると、まねやコミュニケーションの力が育ち、バイバイの手の向きも自然に上達していきます。
逆さバイバイは、多くは自然な発達の一部です。気になるときは、乳幼児健診や小児科で相談してみてください。
<参考文献>
・CDC. Developmental Milestones: 12 months – Waves “bye-bye”.
・国立成育医療研究センター. 乳幼児健康診査 身体診察マニュアル(改訂版)—指差しの発達・M-CHATの活用.
・Shield A, et al. Palm Reversal Errors in Native-Signing Children with Autism J Commun Disord. 2012;45(6):439-454.)Liu L, et al. Early gesture development as a predictor of autism spectrum disorder in elevated-likelihood infants of ASD. BMC Psychiatry. 2024;24:710.
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