授乳と薬の基本的な考え方

「この薬を飲んで母乳を与えると、赤ちゃんに影響しないかしら」と、授乳中に薬を使うことを躊躇するという声が多数寄せられています。この記事では、授乳と薬の基本的な考え方をお伝えしていきたいと思います。

母乳の中に含まれる薬の量はごくわずか

母乳はお母さんと赤ちゃん双方の健康にとって、実に多くの短期的、長期的利益をもたらすことが知られています。(「母乳育児がお母さんと赤ちゃんにとって良い3つのポイント」も参照してください。)

母乳はお母さんの血液から作られるため、お母さんの服用した薬も、母乳の中に含まれる可能性があります。処方薬のみならず、市販薬 (「母乳育児Q&A(3)お母さんが風邪をひいたとき~授乳と内服について」も参照してください。)やハーブ類、ビタミン剤等も例外ではありません。しかし、母乳に含まれる量は、お薬の種類や服用方法、服用のタイミング等さまざまな要因に左右されます。一般的に、母乳の中に含まれる可能性のある薬の量は、お母さんが服用した量の約1%以下と言われていますので、その量はごくわずかです。ただ、わずかであっても赤ちゃんへの影響が無視できない場合もあります。(1)

母乳育児はお母さんと赤ちゃんに多くのメリットがあるため、薬が母乳に移行するリスク(ほとんどの薬では低いリスク)をとるに値するのかどうか、慎重に見極める必要があります。

授乳できなくなる処方薬はごくわずか

日本において、一般的に処方されるお薬の添付文書には、授乳を避けるか中止するよう促すものが大半(約3/4)を占めます。しかし近年、様々なデータが蓄積され、授乳ができない薬はごくわずかであることがわかってきました。(2)

例えば、抗生物質など赤ちゃん自身の治療でも使われるお薬であれば、母乳の中に含まれると予想される量が、赤ちゃんへの使用で安全とされる量を大きく下まわる場合、授乳しながら服用しても比較的安全といえます。(1,2)

しかし、お薬の中には、赤ちゃん自身の治療では使用が禁止されていたり、赤ちゃんにとっては多い量になってしまう可能性のものがあります。また、赤ちゃんの体の中で代謝されるのに時間がかかったり、お母さんの母乳の出を悪くしてしまうお薬などもあるため、注意が必要です。

どちらかをあきめる以外にも選択肢がある場合があります。まずは相談を。

一般的に抗癌剤や免疫抑制剤は、その薬効から授乳禁止とされていますが、薬の種類や量によっては可能な場合もあります。授乳への影響を気にして、お母さんが症状を我慢することは、お母さんのストレスや持病を悪化させる原因にもなります。これでは、母乳育児を阻害したり、赤ちゃんやお母さんの健康を損なう要因にもなりかねません。

したがって、お薬のために授乳をあきらめる、授乳のために治療をあきらめると自己判断で決めず、授乳とお母さんの治療を両立する最善の方法はないか、かかりつけ医や薬剤師さん、授乳と薬の専門家等に是非相談してみてください。

具体的には、そもそもその薬を使用する必要があるか、薬を使用しない他の治療はないか、同じような効用で母乳や赤ちゃんへの影響が比較的少ない薬はないか、といったことを検討します。それ以外にも投与方法や投与タイミングを変更するなど、さまざまな選択肢が取れるかもしれません。

 

授乳と薬の詳しい情報は、国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」でもご覧になれます。

 

さらに詳しく聞いてみたい方はぜひ直接ご相談ください。

小児科オンラインはこれからもお子さんの発達、子育てに関する疑問を解決するために情報を発信していきます。

(小児科医 西澤和子

 

参考文献

(1)International Lactation Consultant Association (ILCA). Core Curriculum For Lactation Consultant Practice. 2nd ed., Jones and Bartlett, 2008.

(2)NPO法人日本ラクテーションコンサルタント協会. 母乳育児支援スタンダード第2版, 医学書院, 2016. p. 330-336.

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