神経性やせ症は「拒食症」とも呼ばれ、食行動の異常を特徴とする摂食障害の一種です。とくに思春期の女性に多く、見た目には元気そうなのに、実は体の中はボロボロになっていることも……では、どうすれば早めに異変に気づけるのでしょうか?
神経性やせ症はただのダイエットとは違う
ダイエットは思春期女性の神経性やせ症のきっかけになります(注:ダイエットが最も多いですが全てではなく、他のきっかけには、多忙、受験、かぜや胃腸炎などの身体疾患、スポーツなどがあります)。ダイエットは美容や健康のためにする人が多いと思われますが、神経性やせ症の場合、健康的な範囲を逸脱して、体に悪影響を与える病的な低体重の状態に陥ります。どうして行き過ぎてしまうのでしょうか?
はじめは健康や自分磨きのためにダイエットを始めます。体重が減ると、その達成感と周りからの良い評価によって、いっそうダイエットに励みます。一定以上の低栄養状態になると、脳の変化が生じ、漠然とした食後の後悔や罪悪感を感じたり、自分が太く見える幻覚(ボディイメージの歪み)や食べること・体重が増えることに対する恐怖(肥満恐怖)が生まれます。この状態になると、まるで洗脳されたかのように「食べるのは悪いこと」、「まだ太っている」と信じ、「やせていないとすべてが終わる」ような恐怖を感じ、さらに食事を減らして体重が減少します。
すると、より病気の考えが強まり、低栄養と恐怖の悪循環に陥って、「体重を増やさなければいけないのはわかっているけど増やせない」など、自分が自分でなくなってしまったかのように、コントロールが効かない状態になってしまうのです。
つまり、わざと体をいじめているわけではなく、病気に支配されていて本人も困っているのです。
食べることに強い関心とこだわりがある
神経性やせ症は拒食症とも呼ばれますが、決して食べることが嫌いなわけではありません。
むしろ、栄養が足りない状態なので食べ物への関心は人一倍強くなって、常に食べ物のことを考えていることが多いです。
その強い食欲を抑え込んで食事量を減らすタイプは摂食制限型と呼ばれ、神経性やせ症の90%を占めます。
一方、強い食欲から食事を大量に摂取し、その反動からくる罪悪感によって自ら嘔吐したり、下剤や利尿剤を使用するのが過食排出型です。
からだや生活に与える影響は大きい
神経性やせ症はやせていて、生理が止まっている以外には、寒がり・冷え性、便秘、肌荒れや髪質の悪化などがみられます。一方で活動的で運動や勉強も積極的に行っていることが多く、とても元気に見えます。でも、気づかないところで体に深刻な影響が及んでいるのがこわいところなのです。
低栄養状態が続くと脳に変化が生じて、思考力に加えて、コミュニケーションや感情に障害が出てきたり、こだわりやルールがあらわれたりします。その一部が食後の罪悪感などですが、進行すると食事や体型以外にも運動や生活全般にルールができて、本人を束縛します。
また、低栄養と女性ホルモンが分泌されない影響で、身長が伸びず、骨密度が低下して骨折しやすくなりますし、腎臓が悪くなって将来透析が必要になることもあります。同じように、免疫力が低下したり、肝臓が悪くなったり、心臓の力が弱くなるなどの致命的な状態になりえますが、初期のうちは症状はほとんどでません。
やせているけど元気そうだと思って気づくのが遅れると、命が失われることもあります。実際、神経性やせ症は10年間で5〜10%が死亡するとされており、早期のがんよりもよほど危ないのです。
「自覚がない」「活動的」なので本人や家族も気づきにくい
神経性やせ症の本人は、体重や外見に対する認識が歪んでいるため、やせているにもかかわらずまだ太っていると感じてしまい、自分が病気だと分からないことが多いです。
家族もまた、本人が「健康のためにダイエットをしている」と思い、活動的で一見元気そうに見えるため、問題に気づけないことが多く、そして、気づいた頃にはすでに進行しているのです。
さらに、家族が異変に気づいて本人に指摘しても、病気の自覚がない本人と心配する家族との間で対立が生まれることも珍しくありません。
神経性やせ症はからだや生活、そして将来に大きな影響を与えます。とても気づきにくく、家族の対立を生みやすい、クセの強い病気ですが、早めに気づいて対応すれば、治せる病気でもあります。
体重が明らかに減っているのに不釣り合いに元気、食事や体重へのこだわりが強まった、笑顔がなくなったなどのサインが見られる場合は、直接ご相談ください。
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(小児科医 王 謙之)